片山弁護士のチラシの裏
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成年後見制度

成年後見制度

1 成年後見制度の必要性

1 成年後見制度の必要性

 法律上、人間は、成人することによって(現在は、20才です。政治の世界では、選挙権に引き続き成人年齢一般を18才に引き下げようという議論がなされているところです。)一人前と扱われます。

 近代市民社会においては、人間一人一人が合理的思考をもち自分のことは自分で決めることが最も自分の利益に適うという建前があります。一人前と扱われるということは、何らかの法律行為を行ったことにより、自己の合理的な判断の結果とみなされるので、その法律行為から生じる効果をすべて引き受けなければなりません。いわゆる「自己責任」という話です。

 とはいえ、全ての人間が合理的な判断をできるというものではありません。法は、未だ判断能力が発展段階にある未成年者について、一定の保護を与えています。
 これに対して高齢者は、年を取ることにより判断力が低下することは避けられないのですが、高齢者であることのみをもって一定の保護を与えるという制度にはなっていません。高齢者と一口に言っても若い人よりもずっと元気な方もいらっしゃいますので、当然と言えば当然です。
 そこで法は、高齢者の中から判断能力が低下した方だけを選別して、一定の保護を与えるという制度になっています。 

2 成年後見の申立て

2 成年後見の申立て

 すでに判断能力が低下してしまった場合には、本人が契約をすることができないので、任意後見制度や財産管理制度はもはや使えません。そこで、家庭裁判所に対し、成年後見人の選任を申し立てることになります。個々人の判断能力の低下には程度に差がありますので、低下の程度により、保佐や補助といった制度になります。

 成年後見は、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者(民法7条)についてなされます。
 保佐は、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者(民法11条)についてなされます。
 補助は、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者(民法15条)についてなされます。

 いずれも、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人・後見監督人等の請求により、家庭裁判所が審判をすることによって開始されます。以下では、便宜上、成年後見、保佐、補助をまとめて成年後見として説明します。
 身寄りのない高齢者など、親族がいない場合などには、市町村長が申立てを行うことができます(老人福祉法など)。全ての高齢者について市町村が申立てをすべきである、という政策論もありうるところですが、税金を使用するものですので、あくまで親族が行うことができない場合に、補充的に市町村長が申立てを行います。実務的に高齢者問題に関与していると、市町村の担当者によっては、なかなか市長申立てをすすめてくれず、非常に苦労することもあります。

 さて、事理弁識能力がどれほど残っているかは、最終的には家庭裁判所が判断しますが、その前提となるのは医師の診断書です。成年後見を申し立てようとする場合には、自己の財産の管理ができるかどうか、主治医の判断を聞くことがスタートとなります。主治医が「もう財産の管理は難しい。」と言われるのであれば、診断書を作成してもらいましょう。
 なお、家庭裁判所に対し、成年後見(保佐・補助を含む。)の申立てをする際には、所定の診断書の書式があります。高齢者の住所地の家庭裁判所(管轄裁判所)に問い合わせをされるとよいでしょう。インターネットで裁判所のサイトにも書式がありますが、裁判所によって微妙に違う書式を使用している場合がありますので注意して下さい。 

3 成年後見人の職務

3 成年後見人の職務

(1)身上監護と財産管理
 成年後見人の主な職務は、成年被後見人(後見を受けている高齢者のことをいいます。)の身上監護と財産管理です。
 身上監護とは、被後見人の生活や介護が立ち行くようにすることです。必ずしも後見人が自分で家事をしたり、介護をしたりする必要はありません。介護施設への入居の手配や、ケアマネージャーと契約をして介護プランを立ててもらい、ヘルパーさんと契約することで足ります。
 財産管理とは、文字通り被後見人の財産を管理することです。最も重要になるのは、預貯金の通帳を管理し、預貯金又は年金等の収入から、被後見人のために必要な支出をその預貯金通帳から支払っていくことになります。また、不動産があればその管理をし、賃貸物件を所有していれば家賃の改修や修繕などの手配をします(我々弁護士が管理する場合には、不動産会社に管理を委託するのが通常です。)

(2)裁判所の監督
 成年後見人は、裁判所が選任した上、その監督までするため、成年後見人の法的立場が安定し、業務遂行に対する監督が行き届きやすいという利点があります。ただし、現在は成年後見の件数が増えているため、地域によっては家庭裁判所の物理的容量を超えているので十分な監督ができないのではないか、という指摘をする声も聞かれます。
 他方、裁判所という公的機関が業務遂行を監督する以上、後見人には財産を管理するにあたり裁量の余地があまりなく、必要最低限の収入と支出の管理(例えば、年金を受領して病院への支払いをするなど。)のみを行い、元本割れするリスクのある運用などはできません。被後見人が望む支出であっても、後見人と裁判所が協議した結果、支出が認められないことも多々あります。ご家族が「(被後見人が)元気な時はこうしてくれといっていたので、お金を出してほしい。」というご要望を出されることもよくありますが、成年後見人と裁判所の判断でご要望にお応えできず、険悪な雰囲気になることもしばしばです。

 もう少し具体的に言うと、成年後見人が費用を支出できるものは、基本的には、成年被後見人の生活に必要なお金に限られます。それまで同居して生活費を被後見人の収入に依存していたとしても、親族の生活費を支出することは大幅に制限されます。例えば、障がいのある子どもがいたとしても、その子どもの生活費を被後見人の財産から支出すると言うことも、自由にはできなくなります。
 自宅不動産の修繕にしても、現状維持のための保存行為は支出できますが、改良行為には当然に支出できるわけではありません。バリアフリー工事は被後見人のための工事なので支出はできますが、過度に上等な設備を使用していないかなど、後で支出の妥当性について家庭裁判所の監督がなされる可能性があります。

 その他、成年後見人をしていてよく問題になるのが、病院にお見舞いに行くときの交通費と、ご近所や知人・親族への慶弔費を被後見人の財産から出すことができないか、です。回答としては、一般的な基準しかありません。
 ①病院への交通費については、親族の愛情に基づく通常のお見舞いには交通費を出せません。成年後見人の依頼を受けて成年後見業務の補助のために病院に行ってもらうときには、交通費を出せる場合もあります。
 ②慶弔費については、支出の裏付けとなる証拠があれば、社会通念上相当な範囲で出せる、というものです。具体的には、個別の事情を勘案しなければならないので、そのつど考えることになります。

 成年後見の場合には、どうしても支出が不自由になります。これに備えて、任意後見の制度があります。任意後見であれば、予め、誰々には1か月○万円の生活費を渡すこと、などと定めておくことができるからです。

4 どのような場合に成年後見人の選任を求めるべきか

4 どのような場合に成年後見人の選任を求めるべきか

(1)被後見人名義で契約・手続をする必要がある場合
 例えば,不動産を所有している人が判断能力が低下した場合,その土地を売却しようとしても,売買契約を締結することができません。地方にある山林の一部が道路建設用地にひっかかったので売却したいが,所有者が既に認知症になっていたという事例を耳にしたことがあります。
 銀行預金をおろすことも,本人が認知症になってしまえばできません。金融機関は,本人の判断能力が低下していることに気づいた場合,たとえ身内が付き添っていたとしても,預金の引き出しには応じてくれません。従来の長閑な時代には金融機関も手続に応じてくれたかもしれませんが,今は金融庁から厳しく法令遵守を指摘されている時代です。どんなに頼んでも,金融機関は預金の引き出しに応じてくれないし,応じてはならないのです。

(2)遺産分割協議をしたいが,共同相続人中に認知症の方がいる
 今日では平均寿命が延びたこともあり,相続は,高齢者から高齢者になされることが通常です。子どもがいなくて兄弟姉妹に相続される場合にはなおさらです。
 そこで,相続が発生する場合にかなりの確率で相続人に高齢者がいることになります。すると,必然的に相続人にも認知症の方が存在する可能背が高まります。
 遺産分割協議は,すべての共同相続人が参加しなければ無効です。成年後見が必要になるほど判断力が低下すると,例えばご兄弟で相続があった場合に遺産分割ができず宙に浮いてしまう場合があります。その際に,成年後見人を選任したうえで,遺産分割協議をすることになります。

(3)被後見人を消費者被害から保護する
 訪問販売等の高齢者を狙った消費者被害が後を絶ちません。金塊,羽毛布団,床下乾燥機,屋根工事,浄水器,呉服,新聞定期購読,健康食品など,その時々の社会の流行によって形は変わりますが,いずれも不必要なものを大量に買わせるものです。
 成年後見人が選任されていれば,お金は成年後見人が管理しているので,たとえ被後見人が騙されたとしても,お金は失わずに済みます。成年後見人は,契約取消権をもっているので,お金を出す前にもととなった契約を取り消してしまえば,消費者被害から被後見人を守ることができます。

(4)その他
 その他にもいろいろな事情がありますが,親族間で誰がお金を管理するかについて話し合いがつかないため,中立的な第三者として専門家を成年後見人に選任するということもあります。
 また,親族の一部が被後見人の財産をほしいままに費消してしまう虐待(経済的虐待)のケースもあります。成年後見人が被後見人の財産を管理することで,虐待状態から脱することができます。 

5 成年後見人の報酬

5 成年後見人の報酬

 成年後見人の報酬は、家庭裁判所が後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から相当な額を決めます(民法862条)。
 家庭裁判所の報酬算定基準はすべて明らかにされているわけではないのであくまで体感ですが、財産の額及び業務の大変さを考慮して、毎月定額の報酬として2万円~5万円程度の基本報酬部分に加え、遺産分割や不動産の売却等、特別な行為をした際に加算される特別報酬部分があります。私も計20人近く後見人をしていますが、予想を裏切られることも多く、家庭裁判所は一定の計算基準があるようですが、よく分かりません。

6 親族後見人

6 親族後見人

 成年後見人の報酬は、被後見人の財産から支出されます。成年後見を申し立てた親族ではありません。被後見人の資産がない、あるいは被後見人の資産の減少を防ぐため、成年後見人の報酬を節約したい場合には、親族が後見人をする場合があります(「親族後見人」と言います。これに対して弁護士や社会福祉士等が業務として成年後見人となることを「専門職後見人」といいます)。

 親族後見人の最大のメリットは、報酬がかからないことです。法律上は、親族後見人であっても、家庭裁判所に申立てを行い報酬を付与してもらうことはできるのですが、申立てを行わず、事実上無報酬で後見人業務を遂行することになります。親族は、いずれ相続が発生した際に遺産として取得するので報酬はなしでもよい、という判断もあるかと思います。

 しかしながら、親族後見人は、法律上、専門職後見人と同等の注意義務(善管注意義務)が課されます。不適切な支出がなされれば損害賠償をしなければなりませんし、自己の財産と混同してしまえば、横領と言われかねません。1年に1回を目安として、裁判所に対して定期的に後見業務に関する報告をしなければなりませんし、何か問題が起こればその都度家庭裁判所に報告することになります。
 このような重い責任を無報酬で負うことが妥当なのか、親族後見人に就任すべきか否かは、慎重に判断されることをおすすめします。弁護士の立場からすると、成年後見人として被後見人の財産管理をトータルに行う方が、個々の法律問題ごとにご依頼を受けるよりも業務しやすいのは確かだと思います。