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経営者の相続(事業承継)

経営者の相続(事業承継)

1 事業承継の必要性

中小企業における事業承継とは、分かりやすく言えば、会社の代替わりのことです。

中小企業の多くは、高度経済成長の波に乗って若く元気のあるときに創業した社長が、株主兼経営者のオーナー社長として自分の才能や人脈をもとに辣腕を振るい、バブル時代、バブル崩壊後の失われた20年に耐え、懸命に会社を守ってきました。ところが、昔は若かったオーナー社長もバブル崩壊のころには中年世代となり、失われた20年が経過したことで高齢化し、そろそろ引退する時期を迎えています。

社長(経営者)という人間(自然人)の命に限りはあるけれども、会社(法人)の命に限りはありません。しかし、オーナー社長が何もしないまま死んでしまえば、会社を道連れにしかねません。

会社には従業員がいて、取引先もいます。社長が引退する場合に、当然に会社も店終いしてしまっては、従業員は失業し、その家族までもが路頭に迷ってしまいます。会社がなくなることで社長の収入もなくなり、年金のみで老後を過ごすことになるかもしれません。また、取引先も売上を落とし、極端な例では連鎖倒産しかねません。

どんな仕事をしていても、辞めるときは次の担当者に引継ぎをします。社会人としての義務と言えます。同じように、一度起業したからには、次の経営者に引継ぎをする社会的責任があるともいえます。

また、株式をうまく譲渡することで、創業者の手元にもお金が残り、経済的に豊かな老後(ハッピーリタイヤ)を送ることが可能になります。

つまり、事業承継をうまく行うことによって、関係者全員にとって利益があるのです。

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2 当事務所が提供する事業承継サービス

経済産業省のホームページによれば、2012年2月時点で日本の全企業数は386万であるところ、中小企業・小規模事業者は385万で、全体の99.7%を占めます。小規模事業者をとりだすと334万で、全体の86.5%を占めます。
つまり、我が国の企業は圧倒的多数が小規模事業者です。下関のような地方都市では、さらに小規模事業者の割合が高くなるでしょう。
その中でも、株主を親族が保有する同族会社がほとんどです。私は下関商工会議所青年部に所属していますが、そこで付き合いのある方々もほぼ小規模同族会社の方々です。

事業承継に関するインターネットの記事や書籍、講演会などが盛んですが、金融機関、コンサルタント、又は会計事務所などが想定するのは、ある程度の規模がある会社を想定したものが多く、必ずしも小回りが利くとは言えない場合も少なからずあります。「鶏を割くに牛刀を用いる。」という諺がありますが、費用対効果の面で過大な負担となりかねません。小規模な同族企業にはその特徴を踏まえた対策が必要です。

下関という土地柄、当事務所で扱うのは、この小規模な同族企業の事業承継に限定しています。
小規模同族企業の事業承継は、詰まるところ相続の問題に帰着します。相続の専門家を名乗る職種は多数ありますが、弁護士は既に紛争化した事案(中には泥沼化しているものも少なくありません。)を日常的に扱っていますので、紛争の芽を事前に摘むことが可能です。

小規模同族企業においては、親族内の事情や会社の事情が十人十色で、事業承継対策も会社に応じてカスタマイズすることが必要です。また、何らかの対策をとればすべて解決というわけではなく、中長期的な計画を立て、継続的に実行していかなければなりません。
そこで、当事務所が事業承継のご依頼をお受けする場合には、原則として顧問契約の締結をお願いしています。スポット的に一時的な対策を行い、後は知らないという無責任なことはしたくないからです。

3 3つの枠組み

事業承継を検討するにあたり、まず決めなければならないのは、次代の経営者を誰にするかです。3つのパターンがあります。


  ①親族(多くは子)を後継者にするパターン

  ②社内の従業員を後継者にするパターン

  ③社外の第三者を後継者にするパターン(M&A)

小規模同族企業では、①親族内承継、とりわけ子が後継者となるパターンがほとんどです。①~③の中では、取引先、従業員、経営者の親族すべての同意が最も得やすいパターンです。とりわけ、下関のような地方都市では、未だに家制度的な発想の残滓がありますので、最もよく見られるパターンです。
 問題は、親族内に経営者に相応しい能力をもつ人がいるか、その人が会社の経営者の地位を引き継ぐ意欲があるかです。親族内という限られた人数の中から後継者を選定するため、適切な人材がみつからない危険があります。子であるという理由で適性のない者を後継者としたため、2代目が会社をだめにしたという話はよく聞くことでしょう。

親族内に適切な人材が見つからない場合、②社内の従業員を後継者にすることも検討されます。社内のたたき上げの従業員であれば、会社の業務に精通しているし、従業員とも顔見知りですので、円滑に会社を経営できます。
しかしながら、従業員は基本的にサラリーマンですので、会社の株式を譲り受けるための資金や株式の贈与を受けたときの贈与税のための資金などの蓄えがありません。また、ある程度の資産がなければ取引銀行の信用を得られないという問題もあります。これらの資金をどう準備するかが問題です。

③のM&Aは、売り手と買い手のマッチングが要ですので、信頼できる仲介者に依頼することが重要です。売り手と買い手の情報を多く有する金融機関やコンサルタントの得意分野ですので、これ以上言及はしません。

4 事業承継の2つの視点

事業承継を円滑に行うためには、
  ①税金対策
  ②「争続」の回避
 という2つの点を注意しなければなりません。税金対策ばかりに目が向きがちですが、税金を安くして「争続」が起こり、一族が分裂すると同時に会社も倒産するのでは本末転倒です。

(1)税金対策

従前、バブル経済の時代には、保有する金融商品の価格が上がり、不動産の含み益が増大するなどして企業の資産価値が高騰したため、株価も膨れあがりました。そうすると、事業承継に伴って株式が移転する際に発生する税金(相続税、贈与税など。)が莫大なものになるため、いかに節税するかという①の点に重点が置かれました。
バブル経済の時の事業承継=節税のイメージだったため、事業承継という言葉には、どこか後ろめたいイメージが少なからずありました。

今日でも、業績が好調であったり、資産を多数保有する企業は、事業承継に伴う株式の移転に際して、多額の税金が発生します。

国は事業承継を円滑に進めるために、いくつか税金の特例を設けています。こうした特例を利用して節税しながら、それでも多額に上る税金を後継者がどのように用意するかが第1の問題点です。

税金のことは税理士が専門家ですので、事業承継には税理士の関与が必要になってきます。当事務所では、税金が問題になる場面では税理士とチームを組んで対応していきます。

(2)揉めない相続は、弁護士の専門分野

事業承継には多数の法律関連士業が関与しますが、争続を避けるという観点では、弁護士が一番の専門家です。常日頃、すでに紛争化してしまっている相続事件を扱っているため、紛争になりそうな勘所を押さえることができるからです。
私が経験した事案の中にも、節税対策で賃貸マンションを建てたところ、後に分割するときに揉めに揉めたというものがあります。土地にかかる相続税を減らすために賃貸アパートを立てるという方法は昔からありますが、弁護士の立場からすると、非常に危ういものを感じることがあります。
以下では、相続時に争いを残さない事業承継という観点から検討します。その際キーワードは、遺言です。

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5 争続を避けるにはどうすればよいか

(1)事業承継対策を何もしない場合

まず、事業承継対策を何もしない場合はどうなるかイメージしてみましょう。

 オーナー社長に子どもが一人しかおらず、その一人っ子が会社の後継者となるのであれば、唯一の相続人となりますので、相続が発生しても紛争になることは想定できません。あとは、相続税をどう納めるかという税金の問題になります。

 子どもが複数いたり、配偶者がいたりして相続人が複数存在する場合に共同相続となります。

遺言がない場合には、基本的に法定相続分にしたがって遺産分割をします。法律で決まっているのは法定相続「分」であって、遺産に含まれる具体的な財産を誰が何を取得するかは決まっていませんので、争いの種になります。ここが争続の1つめの原因です。

現金や預貯金であれば、単純に法定相続分で割ることができます。
会社の株式も法定相続分で割れば良さそうですが、ことはそう簡単ではありません。小規模同族企業では、株式の分散は避けなければなりません

例えば、父親であるオーナー社長がA社の株式300株(100%)を保有したまま死亡して、子ども3人が相続したとします。長男が後継者とされていましたが、法定相続分はあくまで3分の1ずつ、つまり100株ずつを3人が相続することになります。1回相続が発生しただけで、後継者の持分割合は33%になってしまいました。
その後、30年が経過し、長男も死亡し、その子2名のうちの1名が後継者になりました。二男と三男は既に死亡しており、それぞれ2人ずつの子どもがいたとします。
こうなると、2代相続が発生しただけで、3代目の経営者が保有する株式は50株(16%)しかなくなります。3代目ということは、いとこ同士の関係です。いとこ同士では、円滑な意思の疎通も困難です。このような状態では、大事なことは何も決められません。
この動きの速い経済環境にあって、株主総会で決めなければならない会社の重大事を何も決められないまま放っておけばどうなるかは想像できるでしょう。取引先を同業他社に奪われ、売上を落とすことは必定です。

(2)遺言をした場合

 A社社長の長年の友人であったB社のオーナー社長は、A社の失敗を間近に見て、A社の二の舞にならないよう後継者と決めた長男に全財産を相続させる旨の遺言をしていました。
その後、B社の社長が死亡し、相続が開始しました。長男は、当然にB社株式を全て相続した思い込んでいましたが、二男と三男から遺留分減殺請求がなされました。遺留分減殺請求がなされた場合、法定相続分の2分の1にあたる財産は渡さなければなりません。結局、二男と三男はB社株式の6分の1ずつを保有することになり、長男は、株主総会で特別決議が必要となる事項について、経営上のフリーハンドを得ることができなくなります。

このケースでは、遺言はしていたのですが、遺留分減殺請求がなされないような内容の遺言をしなかったことが問題です。遺留分減殺請求をかわすには、遺留分相当額の財産を相続させる必要があります。
遺留分相当額の財産を相続させるためには、会社の株式以外に、預貯金、金融商品、不動産などで遺留分相当額の財産を作っておかなければなりません。
このような資産は、一朝一夕に形成することはできません。事業承継をにらんで、何年もかけて準備しなければなりません。

(3)生前に後継者に株式を譲渡する

遺留分減殺請求の対象となるのは、原則として相続開始前の1年間にしたものに限られます(民法1030条)。したがって、死亡の1年より前に贈与してしまうことが考えられます。
贈与の問題点は、受け取った後継者に多額の贈与税がかかることです。

贈与税を回避しようとすれば、株式を売買することを思いつくのが自然です。
売買の問題点は、後継者が多額の売買代金を用意しなければならないことです。不当に安価な売買代金で売買しても、税務署から贈与と認定されれば、贈与税を加算税つきで支払わされる可能性があります。とすれば、買主である後継者は、正当な売買代金を支払わなければなりません。

どちらも、後継者が多額の資金を用意する必要があります。節税にも十分目配りしながら、対策をとらなければなりません。
いろいろなスキームが考えられますが、例えば、①早めに後継者を会社の役員に選任しておいて役員報酬を多めにして貯蓄させたり、②1年間110万円の贈与税の非課税枠を利用して後継者に何年もかけて資金を移動させたり、③生命保険契約を利用したりするなど、それぞれの会社のケースに応じて方法をカスタマイズする必要があります。④相続時精算課税制度など、税の特例を有効に活用することが肝要です。

6 遺留分に関する民法の特例

遺留分を侵害しないように遺言をしておくのが基本ですが,必ずしもそうできるとは限りません。

例えば,自社株を生前に後継者に対して売買ではなく贈与する場合,特別受益として遺留分減殺の対象になります。後継者以外の相続人に対して,自社株又は事業用資産以外の資産を相続させたり,特別受益となる別の財産を贈与させたりして,遺留分侵害が起こらないようにできなければ,最終的に遺留分減殺請求を免れません。

そこで,「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」は,遺留分に関する民法の特例を設けています。

これは,推定相続人(遺留分権利者)全員の合意をもって,書面により,以下の合意をすることができる制度です。

①除外合意
  生前贈与された自社株を遺留分算定の基礎となる財産に算入しない

②固定合意
  遺留分算定の基礎となる財産に算入する価額を予め固定する

付随合意
  後継者が旧代表者からの贈与により取得した自社株以外の財産及び後継者以外の推定相続人
  (遺留分権利者)が旧代表者からの贈与により取得した財産を遺留分算定の基礎となる財産から除外する

こうした制度がなければ,生前贈与により自社株を取得した後継者は,旧代表者が死亡して相続が発生する際に,自社株の評価額が低ければ低いほど他の共同相続人の遺留分を侵害する可能性が低くなるため,自らの才覚をもって会社の価値を高めようというモチベーションを欠くことになります。自分が頑張れば頑張るほど,自分に不利になるのであれば,誰も頑張るはずがありません。

後継者としては,他の推定相続人(遺留分権利者)から合意をとりつけ,①除外合意をすることが最も利益となります。それができない場合には,せめて後継者の努力による株価の上昇分は遺留分基礎財産から外そうという②固定合意を取り付けることになります。他の推定相続人とこれらの合意ができる程度の人間関係を維持しておく必要があります。

旧代表者としては,自らの推定相続人が,できれば①除外合意,できれば②固定合意をすることができるよう親族間の関係が破綻しないよう配慮しておくつとめがあると言えるでしょう。

これらの除外合意又は固定合意ができた場合,経済産業大臣の確認に加えて,家庭裁判所の許可を得ることが必要です。

なお,これは,一種の遺産分割協議の前倒しの要素をもっていますので,推定相続人(遺留分権利者)全員の合意が必要です。したがって,せっかく合意をした後に,後継者が死亡したり,養子などにより新たな推定相続人が出現した場合には無効となります。