片山弁護士のチラシの裏
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相続

1 相続争いは誰の身にも降りかかる可能性があります

相続争いは誰の身にも降りかかる可能性があります

相続は,逆縁という悲しい事態が起こらない限り,誰でも一生のうちに数回は遭遇する現象です。
相続は,文字通り血を分けた親族間での争いとなります。財産という経済的利益と積年の感情的な対立が複雑に絡み合い,噴出します。歴史を紐解けば,古今東西,跡目争い(相続)を巡って大きな戦争が何度も起きており,多くの人が命を失っています。小説でも題材となることが多く,横溝正史原作の「犬神家の一族」も相続にからんだ殺人事件といえます。
「争いになるのはお金持ちだけで,うちは財産なんてないから争いになるはずがない。」と軽く見るのは早計です。財産が多ければ土地を長男に,同価値の預金を二男に,と分割することができます。財産が少なければ,同価値の預金を用意することができず,どう分けるかが激しく争いになるからです。自宅土地建物しか財産がないという場合は,最も激しく争われる類型の一つです。
感情をお互いにぶつけ合っても問題は決して解決しません。法律という客観的なルールをふまえて,それを補うために相互に譲り合いウィン・ウィンの関係を目指さなければなりません。そのためには,当事者の激しい感情から一歩引いて冷静に考えることができる弁護士を代理人として遺産分割にあたることが極めて効果的です。

2 手続

相続人の間で話し合った結果,話し合いがまとまれば一番良いのは,離婚と同じです。円満な親族関係が維持され,今後とも助け合って生きていくことができるのでしょう。この場合であっても,不動産の名義変更や銀行での手続のために遺産分割協議書を作成しておくことが望ましいでしょう。

遺産分割協議は,えてしてまとまらず,話し合いをすればするほど相続人の感情的対立が激しくなることがあります。刀傷沙汰になることもあります。近しい親族だからこその積年の思いが積もっていますし,相続人の配偶者や知人が横槍を入れて対立を煽る場合も多いです。

遺産分割協議がまとまらなかった場合,家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。裁判所の力を借りて話し合いをすることになります。調停の場合には,調停委員を通して主張し合うことができ,直接顔を合わせないようにすることもできますので,多少は冷静になって話し合いを進めることができます。

調停による話し合いでもまとまらなかった場合,審判という形で裁判所が一刀両断に結論を出して紛争を解決に導きます。一刀両断ですので,個別のこの財産はほしいというような調停で希望していた事柄が実現される保証は全くありません。不満であれば抗告し,高等裁判所の判断を仰ぐことになります。

3 相続対策(相続発生前にしておくこと)

(1) 遺言

(1) 遺言

相続で紛争が激しくなる最大の根拠は,紛争が起きたときに,その紛争の原因に最も関与した当の本人は亡くなっており,話を聞くことができないことです。まだ相続が発生していないのでしたら,まずは争いにならないよう遺言をしておくことが極めて有効です。

遺言には,大きく分けて自分で書く自筆証書遺言と,公証人に作成してもらう公正証書遺言があります。自筆証書遺言では紛失の危険などもありますので,当事務所では公正証書遺言の作成をおすすめしています。ご依頼があれば,弁護士が遺言作成者のご意向の聴き取りを行い,公証役場と文面の調整をした上,公正証書遺言の立会人となり,公正証書の正本をお預かりする業務を行っています。

(2) 税金対策ばかりに目が行かないように

遺言は相続対策の重要な手段ですが,誤った内容の遺言をしてしまうと,余計に紛争をまきおこしかねません。一番注意しなければならないのは,遺留分(民法1028条以下)を侵害しないような内容にすることです。
遺留分とは,分かりやすく言えば,被相続人の子は,遺言によりそれよりも少ない遺産しかもらえなかったとしても,法定相続分の2分の1の割合の財産については,多く受け取った相続人に請求できるというものです。せっかく遺言をしても,遺留分をめぐる争いを誘発してしまっては元の木阿弥です。

また,相続対策というと税金対策にばかり目がいきがちですが,それがかえって争いを激化させることがあります。例えば,税金対策で遊休土地に銀行から借り入れをして賃貸アパートを建てることがあります。相続税の面から言えば,確かに節税効果があるのでしょう。しかし,遺産分割という面から見れば,一番分けやすいのは預貯金です。賃貸アパートは売ってお金に換えなければ分割できません。一方が売却を求め,もう一方が売却に反対するような場合には,遺産分割が完了するまで売却することはできません。仮に,売却することに合意を得られたとしても,少し不動産市況がよくなったとはいえ,すぐに買い手を見つけることは難しいでしょう。急いで売却する場合には足下を見られて価格は下がるでしょう。相続税の申告期限は死亡日の翌実から10か月以内ですので,万が一賃貸アパートが売れなかった場合,遺産分割ができないので申告ができず,無申告加算税が発生しかねません。
他に,例えば,親が孫かわいさに孫名義の預金をしているようなことがあります。その孫の親である相続人は孫が贈与を受けたものだと主張し,他の相続人は遺産なので分割せよと主張するに決まっています。こうして,孫かわいさの善意がかえって火に油を注ぐことになるのです。

4 遺産分割~相続発生後にすること

(1) 3つの関門

(1) 3つの関門

遺産分割で考えるべきことは,①相続人は誰か,②遺産に含まれる財産は何か(その財産をいくらと評価するかを含む。),③遺産をどう分けるか,です。これらをすべて遺漏なく決められるならば,専門家が介入することなく,相続人だけで遺産分割協議をまとめることができます。しかしながら,以下に見るように,それぞれ難しい問題がありますので,専門家を交えず相続人だけで完結することは難しいでしょう。

(2) 相続人の確定

誰が相続人かは,一見明白なようにも思われます。例えば,父(既に死亡),母,独立した子3人(長男,二男,長女)の家族で母が死亡したため遺産分割が必要となった場合を考えます。3人の子からすれば,自分たち以外に相続人はいないことが明白と考えているかも知れません。ところが,母には離婚歴があり,前夫との間に子が一人いて,そのことを夫にも自分の3人の子にも恥ずかしくて伝えられないまま,文字通り墓場までその事実を持って行ったような場合,前夫との子も相続人になります。
また,とりわけ戦前の家制度が強かった時代には,養子縁組がなされることも多かったようで,思いもかけない養子が存在するかも知れません。
したがって,他に相続人はいないと思う場合でも,必ず被相続人が生まれてから死ぬまでの戸籍を調べなければなりません。判例上,相続人を漏らしてなされた遺産分割協議は無効です。

(3) 遺産に含まれる財産は何か。

理論的に言えば,被相続人死亡時に被相続人に帰属していた財産すべてです。

被相続人名義のすべての財産であることが明らかであるように思われますが,そうとは限りません。他人名義の預金であっても,お金の出所や届出印の保管状況によっては遺産になりますし,逆に被相続人名義の預金であっても遺産ではないこともありえます。ただし,他人名義の財産が遺産であることを主張する場合には,遺産分割とは別の裁判で立証しなければなりません。税金対策に気をとられるあまり,余計に紛争の火種を残すことは避けるべきでしょう。

注意しなければならないのは,遺産分割は,今ある財産を分割するにすぎないということです。よく,「昔,○○という財産があった。今もどこかにあるはずなので,それも遺産である。」という主張がなされることがあります。遺産分割では解決することのできない問題です。相続人の間の合意が得られない場合,法律の制度上,別の裁判を起こして立証しなければなりません。裁判ということは,自分に有利な証拠は自分で探さなければなりません。今見つからないから問題にしているのであって,それがどこかにあるはずだという立証は困難を極めます。訴訟提起を断念せざるを得ないことも多いでしょう。

遺産を金額的にいくらと評価するかも争いになることがあります。
不動産は「1物4価」といわれるとおり,時価(実勢価格)・公示価格・路線価・固定資産評価のいずれによるかにより,金額に差が出てきます。
また,美術品・工芸品などは,購入時には何百万円もした場合でも,いくらも値段がつかない場合もあります。
こうした財産の一つ一つの金額を何を基準に判断するかを決めていく必要があり,案外この点が争いになることがあります。

(4) 分割方法

今日では,民法の定める法定相続分をベースにして,微調整を加えて分割するという大枠は合意できることがほとんどです。
しかしながら,具体的にどう分割するかは激しい争いになります。各相続人には,個別の財産に対する思い入れ強弱があります。例えば,長男は自宅土地建物は先祖代々受け継いできたものだから何があっても自分が守り抜くといい,二男は自宅土地建物を売ってお金に換えて2分の1ずつ分けろというかも知れません。
弁護士的に言えば,遺産はすべて預貯金にしておいてくれたほうが助かります。預貯金であればどうにでも分割できます。
分割方法は,知恵を出し合い,譲るべきは譲り合い,できる限り相続人の希望に添う形で決めていくことが肝要です。

5 法定相続分の修正特別受益・寄与分

(1) 特別受益

(1) 特別受益

共同相続人中に,被相続人から,①遺贈,②婚姻・養子縁組のため生計の資本として贈与を受けた者がいるときは,贈与額を予め相続財産を受け取ったものとみて,持ち戻し計算をします(民法903条)。特別受益がなかったならば被相続人が有していたはずの財産を遺産と考えるのです。生前贈与ならば何でも特別受益になるわけではなく,①又は②の目的での贈与に限られます。

遺産分割調停になった場合,特別受益の主張がなされることがよくあります。例えば,兄弟3人が父親の遺産を相続する場合,「長男は結婚したときに家を建ててもらった。」,「二男は会社を設立する際に営業資金を援助してもらった。」,「三男だけは私立大学の医学部に行かせてもらった。」という具合に,過去の積年の感情が噴出してくるのが特別受益の場面です。

特別受益を主張することは,慎重に判断する必要があります。相続発生の何十年も前の事柄であることが多く,証拠が散逸していることがほとんどで「もらった。」「もらってない。」という争いになった場合,立証のしようがありません

また,一人が他の相続人の特別受益を主張し始めると,十中八九,他の相続人も別の特別受益を主張し始めて収拾がつかない事態になりかねないからです。そうなると,調停などの話し合いで決着をつけることは絶望的なります。

その挙げ句,特別受益がある場合には,持ち戻し計算をした金額が遺産の評価額となりますので,相続税の対象が増える結果,相続税が増えてしまう可能性があります。

ですので,民法上特別受益という制度があるからといって,その主張をするか否かは思案のしどころです。

(2) 寄与分

共同相続人中に,被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは,相当額を予め遺産から控除し,寄与をした者の相続分に上乗せするという制度です(民法904条の2)。
寄与分が認められる類型としては,被相続人の家業を手伝う(家業従事型),被相続人に資金援助をしていた(金銭出資型),体調を崩した被相続人の面倒を長年みてきた(療養看護型),などが典型例です。

寄与分は共同相続人の協議により定めますが,協議が整わないときは,家庭裁判所が一切の事情を考慮して定めます(同条2項)。とはいえ,通常親族であれば助け合う意思と義務がありますので,何らかの貢献をしたというものでは全く足りず,それを超えた特別の寄与が必要です。そう簡単に認められるものではありません。

寄与分の主張も,遺産分割を紛糾させる原因となります。「自分は(長男),親の身の回りの世話を押しつけられてきた。」,「自分は(二男),父の家業が苦しいときに資金援助した。」という具合に,特別受益と同様に積年の思いが噴出してきます。結局,寄与分が決まらなければ遺産分割できないので,紛争を長引かせる要因になってきます。早期に決着させたい場合には,不満はあっても寄与分の主張をあえてしない,その代わり多少自分が取得する財産に色をつけてほしい,という主張に切り替えていくべき場面もでてくるでしょう。

6 相続放棄

(1) 相続放棄とは何か

被相続人が借金ばかりを残して死亡した場合,相続人としては相続放棄をすることになるでしょう(民法938条以下)。

相続放棄により,はじめから相続人とならなかったこととみなされますので(民法939条),配偶者と子が全員放棄した場合,相続人の親(尊属)や兄弟が債務を相続する可能性が出てきます。親族に与える影響が大きいので,専門家にご相談されることをお勧めします。

(2) 相続放棄の手続

相続放棄は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述という法律上の手続をとらなければなりません。
勝手に,他の相続人に対して「放棄するから後はよろしく。」というだけでは足りません。
3か月を経過してしまえば,相続を承認したことになり,もはや放棄をすることができなくなります。
注意しなければならないのは,放棄する以前に一定の行為をした人は,放棄をすることができなくなることです(法定単純承認,民法921条)。

(3) 3か月を経過してしまった場合

相続人の死亡後3か月以上を経過してから相続人に借金があったことを知った場合には,判例上,それを知った時から3か月以内に相続放棄をすればよいとされています。これは,音信不通であった父が死んだことは風の便りで聞いていたが,それから何年もしてから父が消費者金融から借金をしており,その消費者金融から督促状が来た,というケースでは,督促状がきてから3か月以内であれば相続放棄できるということです。
死亡後3か月以上経過してしまったので放棄できないと諦めることなく,専門家に相談されることをおすすめします。